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欧米企業を次々買収、相手方の信頼を勝ち取るNTTデータのグローバル経営術

NTTデータインク前社長でエグゼクティブアドバイザーの西畑さん

NTTデータインク前社長でエグゼクティブアドバイザーの西畑さん

日本最大のITサービス企業、NTTデータグループの海外事業を担うNTTデータインク。2022年にグループ再編で誕生したが、従業員約15万人のうち日本人はわずか600人程度にとどまる。欧米企業を次々買収した結果、インドが約3.5万人のほか米州4万人、欧州5万人で日本人は〝超マイノリティー〟な存在となった。かつての日の丸IT企業はどのようにグローバル経営を推進し、人材を育成しているのか。同社前社長の西畑一宏エグゼクティブアドバイザーに聞いた。

取締役10人のうち7人は外国籍、英語で議論

――NTTと言えば、日の丸企業のイメージでしたが、なぜ、海外事業に特化したIT企業を設立したのですか。

NTTグループは2000年前後に海外の巨額買収を次々仕掛けましたが、ITバブル崩壊もあり、うまくいったとは言えません。しかし、ITサービスはグローバル競争が避けられない分野です。高い授業料を払いましたが、05年頃からNTTデータは本格的な海外展開に踏み切りました。米国では11年にキーン、16年にはデルのITサービス部門を買収、欧州でもドイツやイタリア、スペインのIT企業を次々買収しました。NTTデータの国内事業は約4万人ですが、海外は15万人にまで膨らみました。米アクセンチュアやIBM、インドのTCSなどITサービス大手を向こうに回し、グローバルでトップ5となるため、海外事業を統合してNTTデータインクを創ったのです。

――東京本社の巨大企業で日本人が1%にも満たない会社は聞いたことがありません。どのように経営しているのですか。

オーナーは日本企業(出資比率はNTTデータ55%、NTT45%)ですが、実態は完全に「外資系企業」ですね。取締役も10人のうち7人は外国籍。当然、取締役会は英語で、議事録は英語と日本語で作成します。欧米アジアのみならず、チリ人もいてとにかく多国籍な場で議論をやっています。現場で一番多いのはインド人、やはり現在のIT業界をけん引しているのは米国とインドですから。本社以外の現場で日本人の姿を見ることはほとんどありませんね。

西畑さんはNTTデータの欧州トップを務め、買収先企業と対話を重ねてきた

西畑さんはNTTデータの欧州トップを務め、買収先企業と対話を重ねてきた

買収先トップ2年ほど残留、後継者育成計画を策定

――この四半世紀、日本の大企業は海外企業次々買収しましたが、7〜8割方は失敗だったと言われます。異文化の欧米企業を相手にPMI(統合プロセス)をうまく実行するのは至難の業。特にITサービス企業の場合、買収直後に人材がどんどん流失する懸念があると言われますが。

確かにその通りです。優秀なエンジニアに次々辞められたら、競争力を一気失ってしまいます。そこで我々は買収先のトップと事前に交渉して、例えば買収後2年間は会社に残ってもらい、うまく事業が軌道に乗った際は相応の成功報酬を払うなどの契約をしたりしています。様々なケースがありますが、買収先が創業者の場合、多くの幹部や社員は残ってくれる傾向にあります。買収成否のKPI(数値目標)として優秀な人材がどれだけ残ってくれたかを設定しています。

ただ、その場合も試練は創業者が去った3年後に来ます。そのため事前交渉で本社から有能な幹部人材も送り込んでおきます。そして買収先の幹部陣と信頼関係を構築して、サクセッションプラン(後継者育成計画)を策定するようにしています。カギを握るのはケミストリー(人間同士の相性)になりますが、相手と本音で話し合えるかどうか、そこが難しいところですね。

――言語や宗教なども文化も異なる人たちと、どのようにして信頼関係を構築するのでしょうか。

私の場合、相手方とメールのやり取りをしていて、最初は「Dear.Kaz」と書かれていたのが、次に「Kaz」、そして最後に何も書き込まれないようになると、信頼されるようになったなと感じます。しかし、もともと相手方と100%分かりあえるとは思っていません。私もネーティブでもなく、日本の大学を卒業して半導体の研究やりたいとNTTに入社した技術者です。海外事業に携わるのもかなりキャリアを積んだ後でした。

買収先の企業幹部とよく対話、お任せの割合を6〜8割としていると語る

買収先の企業幹部とよく対話、お任せの割合を6〜8割としていると語る

買収先の幹部と常に対話、お任せの割合は6〜8割に

ただ、買収先の企業幹部には、「絶対にやってほしい」、「絶対にやってほしくない」、後は「お任せ」の割合を2:2:6とするように常に話し合っています。いや、実質的には1:1:8の割合でもいいのです。同じ日本人同士でも100%理解し合えるなんてことはないでしょう。基本的なポイントを抑えつつ、後は信頼して任せるというやり方でオペレーションしています。

――お任せの割合が絶妙ですね。企業買収で失敗するのは、自分たちの経営手法を100%強要し、押しつけたり、逆に100%お任せにしたりしてうまく制御できなくなるためだと言われます。しかし、欧米の様々なIT企業をNTTデータグループとして統合してゆくのは難しかったのではないですか。

そこは時間をかけてブランドを段階的に統一してゆきました。各企業のローカルの文化を尊重しながら、我々が大事にするサステナビリティ(持続可能性)を重視して、バリューという横串をさしてゆきました。幸い、イタリアやスペインなど欧州の企業は伸びていましたし、比較的スムーズにブランドは統合されました。欧州では米国企業よりも日本企業は歓迎されやすい面もあります。あまり強欲なイメージはないし、NTTは「IWON(アイオン)」という次世代の情報通信基盤構想を推進していますが、日本の最先端テクノロジー企業で面白そうだと高い評価を受けています。

D&I推進、グローバル人材評価認定で世界17社の1社に

――デジタル人材はGAFAMなど米テック企業との人材獲得競争も熾烈(しれつ)となっています。人材育成はどのように進めていますか。

実は今年オランダの世界的な人材評価機関から「グローバルトップエンプロイヤー」に初めて認定されました。世界29カ国を対象にグローバル認定を受けた世界企業17社の1つに選ばれたわけです。人材獲得やキャリア開発、多様性などD&Iが高く評価されました。ブランドを統合して欧米で会社名が認知された効果も大きく、人材採用面でプラスに働いています。

――ダイバーシティ対応で言えば、女性管理職比率は高いのですか。

残念ながら日本は、他の企業と同様に女性管理職比率は高いとは言えません。しかし、米国は30%台と欧米の主要国では各国の水準を上回る比率となっています。一番高いのはマレーシアとフィリピンで50%にまで上がっています。特にフィリピンは社員の平均年齢も20代と若いですね。今後もダイバーシティ対応など人材への投資を積極的に進めて、グローバルで戦える体制を整えてゆきます。

(聞き手は代慶達也)

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