「痛いこと」から目を背けない企業風土
コンサルタントのつぶやき今回はISO30414の11項目・58指標のうち、「1.倫理とコンプライアンス」の項目にある「倫理・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合」と「提起された苦情の種類と件数」について取り上げたいと思います。
ソフト面の取り組みも重要
近年、企業の不正や不祥事に関する話題が、世間の注目を集めています。影響力や深刻さによって、世間に広く伝わった大きなものもあれば、社内だけにとどまる小さなものまで、様々あると思います。
不正や不祥事の内容の大小にかかわらず、問題が明らかになった際には、「何が原因だったのか?」、「どのように仕組みや業務フローを変えていったらいいのか?」といった、物理的なハード面の見直しが必ず行われることと思います。
一方で、ハード面の見直しだけで十分なのでしょうか?働く社員一人一人の心理的なソフト面への取り組みも、同じように重要になります。不正や不祥事は、個人の問題ではなく、組織全体の問題だからです。
仕組みや業務フローの整備は、あくまでも準備でしかありません。実際に働く人や、判断する人など全員の実行を伴って、初めて目に見えるカタチの仕事になります。
「全員」というのは、口で言うのは簡単ですが、実行に移し、なおかつ維持し続けるのは、大変な努力が伴います。また、不正や不祥事をゼロにするのは非常に難しいことです。
だからこそ「痛いことにも真摯に向き合おうとする姿勢」、「直面した時に声にあげる、受け止める相互の姿勢」といった倫理感・コンプライアンス感を育む教育や対話の機会を、特定の人だけでなく、全員に対して設けていくことが必要になります。
「社内の風通し」、「企業文化」、「職場の慣習」。こういった目に見えない風土と呼ばれるものは、日頃からの無自覚の意識と行動から形成されていきます。時代に合わせて、また時代を先取りして、変えていかなければなりません。
「可視化して終わり」ではない
経済用語の1つに、「景気動向指数」という経済指標があります。様々な経済活動から影響を受ける、景気全体の現状把握をしたり、将来動向の予測に役立てたりするための指数です。
この中には、「先行指数」と「一致指数」という考え方があります。
◎一致指数:景気の動きと同時に動く
「景気」という目に見えないものを、目に見えるカタチにして、先手をうって対応していこうとするための参考データです。
企業内教育においても、同様のことがいえます。ISO30414の「1.倫理・コンプライアンス」の2つの指標は、「先行」と位置付けることができます。例えば、以下のように捉えてはどうでしょうか。
◎先行
-倫理・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合
-提起された苦情の種類と件数
◎一致
-「不正」「不祥事」の件数
大切なのは、「学習内容のつながり、見直し」と、「数字だけで判断しない」という点です。国や社会のルール、社会的な価値観、ニューテクノロジーの登場、など様々な変化によって、「何を、防ぎたいのか? 守っていきたいのか?」は変わっていきます。
その変化に合わせて、つながった学習内容や提起された苦情の種類に見直しや更新ができているか、が大切です。形式的な取り組みになっている場合、つながっていないまま放置されていることもあります。
また、数値だけで判断しない、のも大切です。実際に観察した現場の状態と、「提起された苦情の種類と件数」の数字などを併せて解釈する必要があります。少し違和感を覚えているのに件数が極端に少ない場合、「ものを言いづらい風土」になってしまっている可能性があるためです。
ISO30414の11項目・58指標全てに言えることですが、数字を可視化して終わりではなく、可視化した数字を使って、先手を打った取り組みに活かすことが大切です。
(尾ケ井 一樹)