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キャリア構築の主体は「個人」に 三井住友トラストが挑む100年ビジョン

三井住友トラスト・ホールディングスの藤沢卓己執行役常務は、三井住友信託銀行の常務執行役員も兼務する

三井住友トラスト・ホールディングスの藤沢卓己執行役常務は、三井住友信託銀行の常務執行役員も兼務する

三井住友トラスト・ホールディングスは2024年、創業100周年を迎えた。日本初の信託会社という歴史を持つ同社だけに、次の100年に向けて「信託」へのこだわりを重視しながら、人材面では社員のキャリア自律を促す施策を講じる方針だ。人事部を統括する藤沢卓己執行役常務(三井住友信託銀行の常務執行役員を兼務)に今後の展開を聞いた。

3つの戦略を連動、非人事出身ゆえの強み発揮

――近年、人事畑出身でない人材が、CHROや人事部門の統括役員になるケースが増えています。2023年に三井住友トラストHDの人事部統括に就いた藤沢さん自身も、事業部門の出身ですね。

従来は社内調整が主だったため、CHROや人事部門統括は、人事制度に詳しい人材がふさわしかったのでしょう。ところが人的資本経営の時代になり、状況は一変。経営戦略と事業戦略、人事戦略の3つを連動させる役割が重視されるようになりました。

今では経営戦略、事業戦略についての知見やスキルが必須要件です。私自身、法人事業、投資家事業を統括する部長をそれぞれ経験しました。約1500人、約1000人の陣容をそれぞれ束ねたので、HRBPに近い機能を担ったことになります。各事業に必要な人材の要件についても理解しています。

経営戦略、事業戦略、人事戦略の3つを連動させることが重要に

経営戦略、事業戦略、人事戦略の3つを連動させることが重要に

エッジが効いた人材を採用、博士号取得者も

――金融機関にとって現在の経営環境は追い風です。どのような人材像を求めていますか。

新卒採用では、海外経験を持っていたり、ITやデジタルの知見があったりと、特徴ある学生を積極的に採用したいですね。グリーントランスフォーメーション、デジタルトランスフォーメーションなど、社会のメガトレンドに通じ、エッジの効いた人材は大歓迎です。人材ポートフォリオを考えると、似通った層ばかりを集めていてはいけないと判断しています。

併せてキャリア採用に力を入れています。製造業で働く博士号取得者も採用するようになりました。脱炭素に取り組む企業を支援する「トランジションファイナンス」など、新たな分野で知見を生かしてもらう狙いです。顧客企業の業種が幅広いので、多様な技術のバックボーンを持った人材が活躍する場を提供できます。

事業横断で価値創造、経営人材に必須の要件

――次世代リーダーなど、育成面でどのように取り組みますか。

これまで、信託銀行グループだと言ってきましたが、現在は「信託グループ」と名乗っています。信託へのこだわりを大切にしたいからです。信託を中核に据えた専門性に、多様性を加えた総合力を発揮することが大切だと考えています。

専門性が高い領域を展開しているため、組織は縦割りになりがちです。そんななかで事業横断的な動きにより、新しい価値を創造していくことがカギとなります。横断的な展開をけん引できる人材こそ、経営人材となる資格を持っています。

経営人材育成を意識し、選抜研修や海外派遣に力を入れています。選抜研修については3層に分けています。①Strategic Leader(SL)②Global & General Leader(GL)③Enhancing Global Perspective(EGP)――という3つの研修です。

このうち①は次世代リーダー候補の育成を狙い、30歳代半ばが対象。②は次世代経営人材候補を育成するもので、40歳代前半が主な対象です。これら2つの研修は20年以上にわたって実施してきました。現在年間数十人を対象としており、累計で400人以上が受講済み。受講者から多くの役員が誕生しています。

これに対して、③は海外勤務・留学経験のない40歳前後を対象としています。役員、店部長、次長の層からスタートし、徐々に対象を引き下げてきました。海外トップビジネススクールへの短期派遣プログラムを軸として、年間十数人の規模で実施しています。

独自指標で描く成長ストーリー

――三井住友トラストHDらしさとは何でしょうか。

AUF(アセット・アンダー・フィデューシャリー)という、当社独自の指標があります。資産運用残高、資産管理残高、自己勘定投資を足して算出します。社会的課題解決と市場の創出、拡大に貢献する取り組みを示しており、「信託グループ」としての自社らしさを具体化させる指標だと考えています。AUFは2024年3月末で約580兆円。これを2031年3月末には約800兆円に伸ばす計画です。

――積み残した課題はありますか。

人的資本経営について積極的に開示しています。今後は、人的資本経営と企業価値向上とを結び付けながら、成長ストーリーを説明していきたいと考えています。

社内向けには、行動変容を促す施策を講じます。社員の「満足度」の指数は向上し、2023年度は過去最高となりました。当社のパーパスは「信託の力で、新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」。このパーパスに込めた想いを社員に伝えるため、経営トップが全国をキャラバン展開した成果でしょう。これに対して今後は、会社への貢献意欲や業務のやりがいを意味し、社員の行動変容につながる「活性度」の指標を、引き上げる必要があると考えています。

今後は、会社への貢献意欲や業務のやりがいを意味し、社員の行動変容につながる「活性度」の指標を引き上げる

今後は、会社への貢献意欲や業務のやりがいを意味し、社員の行動変容につながる「活性度」の指標を引き上げる

人事制度を刷新、本人が希望しない転勤も原則なくす

――社員の行動変容をどう促しますか。

次の100年に向けて、まず歴史を正しく知ってもらいたいと考えています。創業100周年の記念誌作成など、過去を理解しやすい仕組みを整えています。その上で、社員一人ひとりの挑戦を後押しし、挑戦やイノベーションを生む風土の醸成に取り組んでいきます。

中核の三井住友信託銀行では2025年4月以降、人事制度を刷新する計画です。詳細はこれからですが、キャリア構築の主体を「会社」から、「個人」に移す内容にします。これに伴い、本人が希望しない転勤も原則なくします。多様な社員が多様な役割で活躍する。そんな自律的キャリア型人材づくりに、覚悟を持ってのぞみます。

(聞き手は村山浩一)

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