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総雇用コスト 低ければよいのか

総雇用コストは、従業員の雇用にかかる費用を網羅的に把握することで、人的資本経営に適切な投資が行われているかを知る指標です。ISO 30414では、「総雇用コスト=給与+雇用保険+健康保険+年金+福利厚生+人材育成費+各種補助+雇用に伴うその他費用」という計算式が提示されています。

人的資源管理から人的資本投資へ

上場企業に対し人的資本経営の開示義務が課される前までは、「ヒト・モノ・カネ」のうち「ヒト」は人的資源という言い方をしていました。それは管理の対象であり、場合によっては削減対象でした。それが、人的資本という言い方に変わってからは、投資対象として見られるようになりました。最近は「賃上げ」のニュースが多く報道されていますが、これはまさに人的資本への投資といえます。

冒頭に、「雇用にかかる費用を網羅的に把握」と記しました。「賃上げ」以外の項目も見ていきましょう。先に挙げた計算式のうち、「福利厚生」には、家族手当や住宅手当、通勤手当などが入ります。テレワークを推奨している企業では、通勤手当に加えてテレワーク手当を支給しているところもあるようです。Wi-Fi環境の整備や、長時間座っていても疲れない椅子の購入費用などに充てられているそうです。また、福利厚生は大企業では充実化する一方で、スタートアップ企業では各種手当を一切なくし、その分給与を高くするという選択もあります。大企業と差別化し高給に見せるという採用戦術です。

「人材育成費」には、社内で行う研修費用(会場費・資料費・外部講師への支払い費用含む)のほか、資格取得など自己啓発の支援費用などが入ります。ISO 30414の指標では、この費用だけ個別に抜き出し、「人材開発・研修の総費用」として開示することを推奨しています。なお、この指標は企業規模を問わずすべての企業に対し開示が推奨されている重要指標のひとつです。まだ把握できていない企業は、今後の課題としてとらえるとよいでしょう。

成長することが前提

人的資本経営への投資は、「働きがいや働きやすさへの投資」と言い換えられます。総雇用コストは、低く抑えることが善ではなく、人的資本への投資が適切になされているかという視点でとらえることをお薦めします。もちろん、そのためには企業が生産性を高め、投資以上に成長することが前提となります。「人的資源管理ではなく人的資本経営」という言葉通り、経営課題として推進していきましょう。

(横山貴士)

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