賃上げ、満額超えの春 背景に人的資本経営
コンサルタントのつぶやき2024年に入って3カ月。今年は日経平均株価の高値更新をはじめ、久しぶりの出来事が相次いでいます。「賃上げ」もそのひとつでしょう。2024年春労使交渉では主要産業で、前年を大きく上回る5%超の賃上げが実現。満額回答どころか、満額超えの回答も相次いでいます。大幅な賃上げをみて、日銀は3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を決めました。
人的資本経営に立ち向かう産業界
賃上げには2つの面があります。人的資本経営に沿って戦略的に人材に投資する意味合いと、人不足のためやむを得ず引き上げる側面です。大手ほど戦略的な意味合いの比重が高いようです。
「国内人件費15%増へ、年収最大4割上げ」――。日経電子版がファーストリテイリングの賃上げを報じたのが、2023年1月11日のこと。当時大きな話題になりました。その後、主要各社が相次ぎ賃上げを表明することとなり、今春は賃上げラッシュの様相を呈しています。
中小にも配分強化の流れ
賃上げといっても、収益力が高まったために従業員に分配する企業と、収益力はまだ発展途上だが、人を確保するため先に賃上げする企業が存在します。
最近、こんなニュースが流れました。自動車部品を製造する下請け企業36社への支払代金約30億2300万円を不当に減額したとして、公正取引委員会が3月7日、日産自動車に下請法違反で再発防止を勧告しました。減額の認定額としては過去最高です。同社には下請法の順守のための定期的な監査などを求めました。中小企業が賃上げするために、適切な価格転嫁が重要だとの判断から、公正取引委員会が監視を強めた現われでしょう。
中小にまで賃上げが浸透する土壌は整ってきたようです。3月4日、日経電子版が「中小企業、高まる『賃上げ余力』 労働分配率70%に低下」という記事を配信しました。中小企業の賃上げ余力が高まっていて、労働分配率は70%前後と、1992年以来の低水準になっているというものです。
日経電子版の3月19日の記事によると、ホンダは取引先の資金繰りを支援するため、車部品の製造に使う金型の購入代金を原則一括払いに変更する方針です。日銀のマイナス金利政策解除で、金利が上昇しそうです。金利負担を抑えられると、中小を含む部品メーカーの賃上げ力が高まるでしょう。
コストから投資へ
かつて「ヒト・モノ・カネ」のうち、「ヒト」は人的資源と考えられた時代もありました。当時は、人件費というものは管理の対象であり、業績が苦しい時は削減対象となりました。それがいまでは人的資本という表現に変わり、投資対象と理解されるようになりました。
日本経済新聞社 人財・教育事業ユニットなどが今春実施した「人的資本経営調査」では、外部からの新卒採用、キャリア採用で、人員を充足できていない企業が、全体の3分の1を占めました。賃上げと、人材育成・組織開発の両輪に取り組むことが、企業の継続的な成長に欠かせないことがよくわかります。
(村山浩一)