経験学習の4つのサイクルとは?企業が取り入れる効果・メリットとポイント
人財育成のヒント経験学習とは、経験を通して学んだ内容を生かす学習プロセスです。経験に基づく学びは、深い理解を得られ、能力向上に役立ちます。積極的に経験学習を取り入れようと考える企業も多いでしょう。
まず効果的な導入方法や導入時のポイントやメリットをしっかり把握しておく必要があります。ここでは、経験学習の概要や、導入することで得られるメリットについて解説します。
あわせて、経験学習を取り入れる具体案と、ポイントも紹介します。効果的に経験学習を導入し、生産性の向上や企業成長につなげましょう。
経験学習とは
経験学習とは、経験を通して学んだ内容を生かす学習プロセスです。
座学によって知識やスキルを学ぶことも大切ですが、自己成長においては、現場での実務経験が重要視な役割を果たします。
米国のロミンガー社(人事コンサルタント会社)が実施した、優秀なビジネスリーダーの経験に関する調査によって導き出された「7・2・1の法則」でも、経験学習の重要性が示されています。
「7・2・1の法則」では、ビジネスパーソンの能力開発は、「仕事経験から学ぶ」が7割、「他人から学ぶ」が2割、「書籍から学ぶ」が1割という法則です。大半が実務の現場で磨かれると述べています。
経験学習モデルとサイクル
経験学習を提唱したデイビッド・A・コルブ氏によると、経験に基づいた学習プロセスは、4つの要素(「具体的経験」「内省的反省」「概念化・抽象化」「能動的実験」)から成り立っています。それら、4つの要素を繰り返すことで経験学習が行われると定義付けられました。
国内では、神戸大学大学院経営学研究科教授・松尾 睦氏の『「経験学習」入門』によって、下記の4段階のサイクルを繰り返すことで、経験学習が行われ、能力開発に役立つと示されています。
1.経験:具体的な経験をする
2.内省:行動を振り返りフィードバックする
3.教訓:経験を多面的に捉えて次に活かす
4.実践:行動を改善して挑戦する
現場で実務経験を積み重ね、経験したことを十分に振り返り、そこから教訓を導き出して実践に活かしていくというプロセスを繰り返すと学びが深まります。
ビジネスパーソンとしての貴重な経験を無駄にしないためにも、経験学習サイクルを回すことが重要です。
経験学習を企業が取り入れるメリット
経験学習を企業が取り入れるとどのようなメリットや効果が期待できるのでしょうか。ここでは、下記の3つの視点から、経験学習を導入する利点について解説していきます。
・どの階層の社員にも効果がある
・社員が自己成長の気づきを得られる
・生産性の向上や企業成長につながる
どの階層の社員にも効果がある
一般的に、フレームワークや学習モデルは、一部の階層でしか効果が見込めないものが多いなか、経験学習はどの階層・年代の社員にも有効です。
いつはじめても効果が期待できるので、新入社員から中堅社員、経営陣まで自己成長のために経験学習を積極的に取り入れると良いでしょう。
グループワークで経験学習を進める場合、ステップ3の経験を多面的に捉えて次に活かす「教訓」では、自身の考えのほか、他者の意見も取り入れて解決へと導きます。
この段階で、階層の異なる社員から意見やアドバイスをもらうことで、新たな価値観に触れられる良い刺激となるでしょう。
社員が自己成長の気づきを得られる
経験学習を導入することで、普段は見落としがちな気づきが得られます。自己成長を自覚しやすい点がメリットです。
日常業務に追われて振り返りの時間がとれないケースも多いかと思いますが、経験学習の導入で、じっくりと経験したことを振り返るようになります。さらに、振り返りをもとに経験を概念化し、自分自身の変化や成長を自覚できます。
自分自身に深く問いかけることで、客観的な視点で行動を分析できるため、これまで気づけなかった新たな発見も多くあるでしょう。
生産性の向上や企業成長につながる
経験学習モデルを用いる場合、自身の行動を振り返って深く思考するプロセスを踏みます。何も考えずに次の業務を進めるよりも、一度立ち止まって思考すると新たな発見があり、改善に努めることで能力向上が見込めます。
生産性に関する経験を経て、効率化を実現する思考を重ね、概念化できれば着実に生産性が向上していくはずです。別の業務においても落とし込めるようになったり、ほかの社員に生産性向上のコツを伝授したり、浸透させていくことで組織全体の生産性アップおよび企業成長につながるでしょう。
経験学習を企業が取り入れるときのポイント
経験学習は、下記の3つのポイントを押さえていくと効果的に導入できます。
・意見を押し付けず自ら内省する時間を設ける
・すべてを本人任せにはしない
・主体的な学習を習慣づける
経験学習をスムーズに導入し、従業員や組織全体に良い効果が見込めるように3点を意識しましょう。
意見を押し付けず自ら内省する時間を設ける
経験学習を取り入れると、上司が部下に対して、「このやり方は非効率かも」「こうしたら良かった」などと意見を押し付けてしまうケースがあります。
他者の意見やアドバイスを聞き入れて、多角的な視点での分析することは、経験学習サイクルのステップ3「教訓:経験を多面的に捉えて次に活かす」で行うものです。
そのためステップ2の段階では、本人が一人で自分自身の考えや言動・行動について深く思考する時間を設けるようにしましょう。
すべてを本人任せにはしない
学習経験は、個々の社員に任せきりにするのではなく、都度フィードバックをして多方面に物事を考えられる環境を構築することが大切です。
すべてを本人任せにすると、一人で深く考えて視野が狭くなったり、評価を得られなくなったりして、正しく経験学習が進められているか分かりづらくなります。
情報共有のツールを使用したり、グループワークなどを導入したりして、社内でコミュニケーションを活発化させながら取り組めばより高い効果が期待できます。
フィードバック文化が根付き、他部署の人とも積極的に関わりをもて、組織全体が共有の知識を蓄積できる効果も見込めます。
主体的な学習を習慣づける
経験学習は、従業員が「やらされている」と感じることがないように、主体的に取り組む工夫が重要です。
具体的には、従業員に対して、経験学習を導入する理由や、どのような将来を期待しているのかを正確に伝えることが大切です。従業員が経験学習の導入意図を明確に把握できれば、意欲的に参加してくれるようになります。
フィードバックの際には、挑戦する姿勢を高く評価したり、1から10までアドバイスをするのではなく、自ら気づきを得るために聞き手に徹したりして主体性を磨くことが大切です。
経験学習を取り入れる具体案
ここでは、経験学習を取り入れる際に用いるべき手法を具体案として紹介します。
・グループワーク
・レクリエーション
・ロールプレイ
・OJT
・eラーニング
・外部研修
グループワーク
グループワークとは、複数人のグループでテーマに沿って議論を交わし、結論を導き出したうえで成果物を発表するワーク形式のことです。具体例を挙げると、4名から5名ほどのグループを作って、テーマに対する意見を出し合い、成果物を完成させます。発表したら各自で内省を行い、その後チーム全体でフィードバックをしましょう。
フィードバックで得られた学びを次のプレゼンテーションにつなげることが大切です。グループワークで経験学習を導入すると、複数人の意見やアドバイスを受けて、自己成長につなげられ、多角的な視点で物事を捉えられるようになります。
レクリエーション
レクリエーションとは、従業員同士の交流や、リフレッシュを目的とした社内イベントのことを指します。レクリエーションを実施する目的は、クイズや簡単なゲームなどを通して緊張感をほぐし、発言しやすい環境をつくることが挙げられます。
従業員の参加意欲を高めることもできるので、レクリエーションを実施した後でグループワークやロールプレイを用いて経験学習を進めていきましょう。
ロールプレイ
ロールプレイとは、「役割(role)」と「演じる(play)」を組み合わせた言葉です。業務上の疑似場面を想定し、自分の役割を演じることでスキルを習得する学習方法です。
例えば、問題やトラブルが発生した事態を想定して演じれば、臨機応変な対応力を磨けます。ロールプレイを用いて学習経験を実施する場合は、特定の場面や相手を明確に設定したうえで取り組みましょう。
フィードバックを行う側は、「良かったです」など抽象的なフィードバックにならないように、身振り・手振り・話し方までしっかり見て、より具体的な学びや発見につなげることが大切です。
OJT
OJT(On the Job Training)とは、上司や先輩が指導役となり、後輩社員に向けの実務を通じた教育方法です。OJTで経験学習を取り入れる場合、指導側のサポート力と忍耐力が問われます。
予め課題の解決策や答えを教えてしまうと、後輩社員が考える機会を失い、経験学習の効果が減じてしまいます。後輩社員が自分で答えを導き出せるよう、辛抱強いサポートが大切です。
eラーニング
eラーニングとは、学習管理システム(LMS)を使用し、インターネット上で学習や研修を行う方法です。経験学習サイクルについて深く学べるeラーニング教材もあるので、積極的に活用しましょう。
具体的には、「経験学習サイクルの回し方」や「日々の経験を振り返る習慣づけ」といった内容が集約された動画教材が多い印象です。eラーニングでは、能動的に経験を積み重ねることや、振り返りの大切さを深く学べます。
外部研修
経験学習は、自発的な気づきを促すことが重要です。フィードバックする側のヒアリング力や傾聴力、忍耐力などが求められます。
社内に経験学習に関する知識や理解があり、適切なフィードバックができる人材がいない場合は、外部研修を活用するのも一法です。
外部研修を導入すれば、経験学習に関する豊富な経験や知識をもつ専門家から指導を受けられます。有意義な時間となるでしょう。
まとめ
経験学習は、自らが経験をすることで得た学びを活かす学習プロセスです。具体的には「経験→内省→教訓→実践」の4段階のサイクルを継続的に繰り返して、少しずつ気づきや学びを深められます。企業が経験学習を導入すれば、良質なフィードバック文化が根付き、個々の社員が主体性をもって業務に取り組めるようになります。生産性の向上や企業成長に良い影響をもたらします。