次世代リーダー発掘・育成に課題が5割 「人的資本経営」調査から見えた企業の本音とは?
人的資本経営調査人材育成・組織開発上の課題を可視化したい。人材確保の決め手を明確にしたい――。そんな狙いから、日本経済新聞社 教育事業ユニットは2024年2月、大手企業を対象とする「人的資本経営」の調査結果をまとめました。調査はワークス・ジャパン(東京・千代田)と共同で実施。調査結果から浮かび上がった実態は?
4割弱が「効果測定」に悩み
今回の調査では、人的資本経営推進のため何らかの体制を作ったり議論したりしている企業が、全体の82.1%でした。大半が何らかの対応を進めていることが分かります。体制整備や社内での議論の取り組み状況については、従業員数1万人以上の企業が相対的に進んでおり、1万人未満の企業との違いが出ました。
各社が取り組みを急ぐなかで、悩みや課題としては、「人的資本経営への投資対効果の測定が困難」「経営戦略を実現する人材の育成が困難」の2項目がともに4割弱を占め、上位に並びました。効果測定をどうとらえるかは、まさに人的資本経営の課題を象徴する事例といえそうです。
後継者の育成計画を社外公表、8.8%にとどまる
さらに、人的資本経営の進捗の度合いを具体的に聞きました。As isとTo beのギャップを把握し、人材ポートフォリオを作成、経営戦略や人材戦略に活用しているのは、全体の11.5%。ここまで実行している企業は産業界でもひとにぎりであり、これからという企業が大半を占めています。
社外に情報開示できている項目についても質問しました。コンプライアンス・倫理、多様性については、ともに6割を超す企業が開示済み。これに対して、後継者育成計画を開示できているのは8.8%にとどまりました。
今回の調査と並行して、主要企業の統合報告書を読み込みましたが、やはり後継者や次世代リーダーの発掘・育成の具体策を書き込んでいる企業はわずかでした。
社員のエンゲージメントに力点
今後、力を入れていきたい分野を聞いたところ、「社員のエンゲージメント」「社員の育成」をあげる企業がともに5割を超え、関心の高さがわかります。エンゲージメントをどう定義し、どう実践していけばよいのか。まだ迷っているという企業の声をよく耳にします。エンゲージメントが人的資本経営を進めるなかで、キーワードになっていることは確かでしょう。
教育・育成に関してどのような課題があるかについては、「次世代リーダーの発掘・育成」が5割と最も回答が多く、それに「マネジメント層育成」が続きます。この2項目は、人的資本経営という言葉を持ち出すまでもなく、近年の産業界に共通する課題となっています。
研修費用、「増やす」過半数
2023年度の研修費用について、56.4%が前年度より増やすと回答。半面、減らすは2.9%とわずかでした。各社の統合報告書の記載でも、研修の実額に加えて、増加率の大きさを強調する例がいくつもありました。
人材戦略に対して変化があったものについて、目を引いたのが「注力すべき階層の変更」という回答が、全体の3分の1あったこと。ここからも企業が経営人材、次世代リーダーの発掘と育成の比重を高めようとしていることがうかがえます。
リスキリング、5割弱が注目
社内の人材を活用するために、新しい登用制度として議論しているものについて聞きました。その結果、リスキリング、配置戦略の見直しの2項目をあげた企業がともに5割弱を占めました。人手不足への対応、外部からの採用の厳しさなどを背景に、社内の人材を活用するため、様々な内部登用制度の議論が進んでいます。
一方、外部からの採用で人材を充足できているかどうか聞いたところ、従業員数の規模が大きな企業の方が、充足できている割合は高まります。しかし、企業ブランドだけで採用できる時代は終わったはず。人を引き付ける企業ほど、経営革新に力を入れていることが評価されているとみるべきでしょう。
外部からの採用で新たな取り組みとしては、リファラル採用、ダイレクトリクルーティングを実施、検討している企業がそれぞれ4割前後にのぼりました。
以上の結果から、人的資本経営への取り組みに知恵を絞ろうとしているものの、なお道半ばの企業が多いことがわかりました。
調査に協力いただいた企業の方々に感謝を申し上げます。これからも、人的資本経営への取り組みについて情報をお伝えしていきたいと考えています。
日本経済新聞社 教育事業ユニットとワークス・ジャパン(東京・千代田)が共同で実施しました。集計は調査会社の日経リサーチ(東京・千代田)が担当。調査対象は従業員1000人以上、または東証プライム上場の企業とし、回答を依頼したのは人事部門の役職者と役員。アンケートは2023年12月に、インターネット上で選択肢を用意する形で提示し、有効回答は374件でした。