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リスキリングの成果で男女格差7:5 グーグル岩村氏も疑問符

経済同友会の新浪氏(中央)とグーグル日本代表の奥山氏(左)と岩村氏

経済同友会の新浪氏(中央)とグーグル日本代表の奥山氏(左)と岩村氏

日本経済はリスキリングを通じて再び成長できるのか。国や地方自治体、企業など200社・団体で構成する日本リスキリングコンソーシアム(主幹事グーグル合同会社)は10月31日、東京・大手町で「Reskiling for Japan 2023」を開催した。新たに経済同友会(代表幹事・新浪剛史サントリーホールディングス社長)と戦略的パートナーシップを締結、官民を挙げてリスキリングを支援する体制を拡充する。リスキリングの現況や課題を探った。

経済同友会と組み、20万人のリスキル支援へ

「日本ではデジタルスキルを獲得しようという人が短期間で大きく伸びている。データ分析、マーケティング、AI(人工知能)の順で人気が高まっている」。

グーグルバイスプレジデントの岩村水樹氏はこう語る。グーグルが主幹事となって22年6月に発足した日本リスキリングコンソーシアムの参加企業・団体は200を超え、1200以上のリスキリングプログラムや就職支援サービスを展開、8万5千人以上が利用している。

さらに経済同友会と組み、24年以内に年間20万人のリスキリング支援を目指すという。経済同友会の新浪剛史代表幹事は同日のイベントで、「古い日本の雇用慣行を打破したい。

全世代の人材の活性化を推進し、キャリアデザインやリスキリングを通じた個人の学びや挑戦を後押ししたい」と話した。

新浪氏は、三菱商事時代にハーバード・ビジネス・スクールに留学、帰国後に社内起業に挑み、ローソン社長やサントリーのトップとなり、プロ経営者と呼ばれた。

自らのリスキリング歴を披露しながら、同コンソーシアムに全面協力して、人材育成を支援する意志を示した。

これを受け、グーグル日本法人代表の奥山真司氏は、「2026年までに50万人をビジネスや組織にイノベーションをもたらす人材に育成したい」と強調した。

一方で、同コンソーシアムはいくつかの課題も示した。登録者の属性を調べると、年代では25~44歳が62.7%を占め、ミドルシニアの比率が高くない。

エリア別では東京圏が55%でそれ以外が45%。一方でリスキリングの成果でも男女格差が生じていることも分かった。男性では69.2%が成果ありと回答したが、女性は50.9%にとどまった。

リスキリングの成果で男女格差があると指摘するグーグルの岩村氏

リスキリングの成果で男女格差があると指摘するグーグルの岩村氏

なぜリスキリングの成果で男女格差が生じたのか明確な答えは見えない。ただ、具体的な成果につながりやすいITエンジニアなどの職種の8割方を男性が占めているのが一因かもしれない。

岩村氏は「なぜ男女格差がつくのか。年齢別や地域別でも格差があり、今後の大きな課題だ」という。

転職後の年収5%アップ 米国は77%、日本は45%

さらに深刻なデータがある。リクルートワークス研究所によると、転職後に年収が5%以上増えた人の割合は、米国が77.2%、フランス75.2%、中国が88.9%に対して日本は45.3%と大きな差がある。

岩村氏は「日本は欧米に比べてキャリアアップ型の労働移動が難しい。転職して年収が下がる人も少なくない」と指摘する。

日本の多くの大企業では、リスキリングして資格などを取得したり、ビジネススクールでMBA(経営学修士)を獲得したからといって、すぐに希望するポストにつけたり、年収がアップするケースは少ない。

そこで政府も労働移動、いわゆる転職して年収アップを促す方針を示している。ただ、大半の企業は、前職の報酬をベースに転職後の年収を設定するため、年収アップにつながりにくいのだ。

成果型の賃金制度を導入しているメルカリでも報酬システムの意外な問題点が浮き彫りになった。社員の約9割が中途採用だが、前職の女性の年収が相対的に低かったため、男女間で37%の賃金格差が生じていたのだ。

メルカリではダイバーシティの点からも問題があるとして、男女間の賃金格差の是正に乗り出した。

日立製作所など日本の伝統的な大企業も年功序列型からジョブ型に雇用システムを移行している。しかし、「いきなりジョブ型に切り替えるのは難しい。特に報酬はナーバスな問題。ジワジワと時間をかける必要がある」(同社幹部)という。

このイベントに参加した衆議院議員の小林史明氏は、「リスキリングしても年収が上がらないと意味がない。リスキリングして労働移動し、構造的な賃上げにつなげる好循環システムを作らないとダメだ」という。

ただ、巨大組織の大企業で実行するのは容易ではないのが実情だ。

リスキリングは手段に過ぎない。大事なのは自分でキャリアの目標を考え、能力やスキルを磨いて成果を上げ、希望するポストや報酬を得ることだろう。

企業側も人的資本経営に積極的に取り組み、人材育成など人的投資を拡大する必要がある。しかし、肝心の報酬やポストなど課題解決の道のりはまだまだ遠いようだ。

(代慶達也)

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