リーダー研修の目的|リーダーに求められる能力やスキル・実施時の注意点を紹介します!
人財育成のヒント階層教育における「リーダー研修」の多くは、チームをまとめ指導的な役割を担う主任、係長クラスが対象です。
この記事では、日々、現場で起こるさまざまな課題を解決しながら、メンバーを導き、共通の目標に向かってリーダーシップを発揮できる人材を育成するトレーニング手法や能力開発、最適な研修内容や組み立て方を解説します。
リーダー研修とは
研修内容は組織やチームにおけるリーダーの立場、役割、業務内容によって変わります。研修の目的はリーダーに期待するレベルを提示し、立場に応じた役割意識を醸成して、少人数グループをまとめあげるのに必要なスキルの習得を後押しすることです。
リーダー研修の目的
リーダー研修の目的は、主に以下の4つです。
①リーダーとしての役割を理解する
リーダーは、上司や部下に挟まれた言わば、コミュニケーションにおけるパイプ役です。上司には、日々の報連相を怠らず、現場で起こるさまざまな問題を適宜、明確に伝え判断を仰ぎます。
また、忙しく立ち回る上司に代わって、フォロワーシップの発揮が求められます。
一方で部下には、組織の方針やチームのミッションを正確にわかりやすくかみ砕いて伝え、一人ひとりを指導してモチベーションを高めます。リーダーになるとチームだけではなく、他部署との連携や交渉の役割を担います。研修では、役割意識の醸成とこれまでとの立場の違いに気づきを与えるディスカッションやゲームを実施します。
②リーダーシップを身につける
リーダーシップとは、仲間を引っ張り、目標達成に向け率先垂範する能力を言います。立場や役割、場面に応じて必要とされるリーダーシップの形はさまざまです。研修では多くの時間をリーダーシップ開発に費やします。
価値観の多様化が進む中、リーダーシップを発揮するには、適切なコミュニケーションスキルや信頼関係の構築が不可欠です。研修では自分自身のリーダーシップやコミュニケーションの傾向を分析し、ロールプレイングを通じて、より効果的な伝え方が身につくよう修正します。
リーダーシップの種類
ここでは、係長クラスに必要なリーダーシップを2つご紹介します。係長クラスのリーダーには、特に集団維持機能のリーダーシップの開発が期待されます。
③判断力や問題解決力を身につける
現場では、日々の業務でさまざまな判断を求められます。現場をまわすために大切なのは、前例に捉われることなく、論理的に解決する力とメンバーを巻き込む説得力・調整力です。研修では、問題解決力に必要なロジカルシンキングのツールの使い方、問題解決フローを使った事例研究を取り入れます。
仕事の優先順位や判断力をつけるには、未決箱の処理と対応演習として階層に応じた「インバスケット・ゲーム」がおすすめです。説得力・調整力においては事例を使ったロールプレイング演習を実施します。
④部下を教育する力を身につける
仕事を通して部下を成長させるのがリーダーの役割です。リーダーは、部下をの指導・育成が自身の成長やプロジェクトの成功にも不可欠であると捉え、主体的に取り組みます。企業ビジョンや行動指針に沿った教育の方向性を理解し、場当たり的ではなく、部下の成長段階にあわせた育成計画を策案し、順序立てて実行しなければなりません。
価値観や世代間ギャップがある中での指導は、部下の状況をよく観察し、必要なときには気持ちや感情に留意し、状況に応じたアプローチが求められます。研修では、育成計画の立て方や部下の成長に合わせた指導スタイルやコーチングの実践演習などロールプレイングで体得します。
リーダー研修こそ手厚く周到に!
現場におけるリーダーは、いないと現場が回らない存在であり、現場の責任者は、研修に時間を割かれたくないというのが正直な思いでしょう。
しかし、初めてリーダーになる人に、不安はつきものです。リーダーの任務について上司、先輩にきいても明快な回答が得られず、過剰なプレッシャーに押しつぶされてしまうこともあります。また、一通りの業務を遂行してきてないものの我流で基本がおろそかになっていることも考えられます。不安を払拭するとともに、基本を再確認し、改めてリーダーに必要なスキルを身に着けるためにもリーダー研修は、手厚く周到にすべきだと考えられます。
現場のリーダーには、部下を指導するうえで専門的な知識やテクニカルスキルは必要です。加えて、ヒューマンスキル、コンセプチュアルといった概念思考も必要になってきます。集合研修であれば最低でも2日間は欲しいところです。
連日の実施が難しい場合は、テーマごとに3時間×4回と分割したり、知識やスキルを分けて学んだりする方法も検討するとよいでしょう。なお、リーダー研修を実施する時期については、リーダーを担った時のほか、実際にリーダーとなって半年ぐらいの時期に改めて自身を振り返り、不足しているスキルを見直して、実践に生かしていくタイミングも有効です。
リーダーに求められるスキルや能力
ここからは、リーダーに求められるスキルや能力について解説します。リーダーには、先述したとおり、組織のパイプ役としての役割やチームをまとめる力が必要です。
・質問する力
・話をしっかり聞く力
・ビジョンを作る力
・ビジョンを元にした戦略・戦術
・フローを作りこむ力
・パッション
・ポジティブなマインド
それでは、具体的に解説します
質問する力
新人時代の「質問」が、単に知識を得たり、上司の指示を確認したりする手段とすれば、リーダーに必要な「質問する力」は、リーダーが、チームのメンバーが持つ潜在能力を引き出し、組織のレベルアップにつなげるための枢要なスキルになります。
「質問する力」が発揮される場面を3つ紹介します。
「どうしたら良いのか」という単なる質問ではなく「方向性についてこのように捉えたが間違いはないか」「自分の部下にこういうやり方でやらせたいが間違っていないか」と自信の判断を交えながら、全体のコンセンサスを取りつつ、意思決定を促進します。
②業務品質向上
進捗管理においては、プロジェクトの方向性、進捗度合、品質レベル、部門間の調整などに問題が生じます。問題を大きくしないようにするうえで、、部下や他部門に適時適切な問いを投げかけて、それぞれの意見や懸念を浮き彫りにし、方向性の食い違いの是正やボトルネックの解消につなげることができます。
③コミュニケーションの向上
相手がどう思っているのか、上司や部下、メンバーの思いを知ることで、より相互に理解が進み、問題解決に近づきます。
話をしっかりと聞く力
話しをしっかり聞く=「傾聴」です。相手の言いたいことを真剣に聞き取る姿勢を態度や言葉で示すことが重要です。
リーダーは、部下やメンバーからの情報や意見に注意深く耳を傾けつつ、その背後にある懸念や感情を率直に受け入れ、正確に理解することで相手との信頼関係を築きます。また、部下やメンバーからの忌憚や提案は、自らが発見できなかった解決策に気づくきっかけにもなるでしょう。
ここでは、傾聴のスキルを3つ紹介します。
言葉・表情・ボディーランゲージで相手の話しを聞いているという意思を示すと、相手が話しやすくなり、話しの続きを促すことができます。
②繰り返しと要約
相手が一通り話し終えた後に、その要点をかいつまんで簡潔に繰り返すことで問題の整理ができます。正確な共通理解につながります。
③共感
相手の立場や心情を理解し共感することで信頼関係を深められます。
ビジョンを作る力
組織における「ビジョン」とは、「目指すべき未来」や「ありたい姿、理想像」を指します。係長クラス以上のリーダーになると、組織や部門のビジョンを把握したうえで現状を分析し、戦略を立てて具体的な戦術や行動に落とし込む重要な役割を担うことがあるでしょう。
これがリーダーに求められる「ビジョンを作る力」になります。「ビジョンを作る力」がリーダーに求められるのは、チームの存在価値を高め、メンバーのモチベーションや行動力の源泉につながるからです。
ビジョンを元にした戦略戦術
ここでは、特に係長クラス以上に必要な戦略力・戦術力トレーニングを紹介します。
戦略力を鍛えるトレーニング
市場開拓や新製品開発の戦略を想定し、SWOT分析を行います。
SWOT分析とは、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の頭文字であり、現状における自社や部門の強み、弱み、外部環境における自社のプラス、マイナス要因を探ることで、既存事業の改善点や伸ばすべきポイント、市場開拓や新製品開発の展望や将来的なリスクなどを見つけることができるフレームワークです。
戦術力を鍛えるトレーニング
SMARTというフレームワークを活用します。
・Specific(具体的): 明確な目標の設定
・Measurable(測定可能): 達成度の測定
・Achievable(達成可能): 実現可能な目標の設定
・Relevant(関連性): 戦略と整合性のある目標の設定
・Time-bound(期限を設定): 目標の達成期限の設定
これらを踏まえ、具体的なアクションプランを5W3Hで作成します。リーダーは、誰が何をいつまでに行うかを明確にし、チーム全体で協力しながら進めることが重要であることを伝えましょう。
物事を正確に伝える際に用いる8つの確認事項のこと。When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、Why(なぜ)、What(何を)、How(どのように)、How many(どのくらい)、How much(いくら)の8つ。
フローを作り込む力
「フローを作リ込む力」とは、工程や業務の流れ、作業手順を設計し可視化する力です。これらを可視化することで、業務の属人化を防ぎ、業務のムダ、ムラ、ムリをなくして標準化が期待できます。
また業務の円滑な連携にも効果があり、生産性や効率性を生み出します。特に係長クラス以上になると、チームやプロジェクトを管理する立場として、メンバーの能力を見極めてタスクを割り振り、業務分担を決定する役割が求められます。現場のリソースを最適化する「フローを作り込む力」は、現場のリーダーだからこそ、できる業務です。
研修では、業務改善をテーマとしてフローを作る重要性とポイントを解説し、実際の業務フローを見直し、3ヵ月から6ヵ月後にその効果を定量、定性的に発表する機会を作ります。
パッション
パッションとは、「情熱」です。特にリーダー自身のパッションは、チームにプラスの影響力を与え、目標達成に向けメンバーを鼓舞し、モチベーションを引きあげる原動力になります。
むやみやたらな熱血指導は考えものですが、熱意が感じられないリーダーが部下をサポートしたり、伴走したりするシーンを想像したくはないでしょう。チーム全体のパフォーマンスが低下し部下のやる気が損なわれていくのは明白です。とはいえ、仕事や家庭で抱える悩みごとで、いつもリーダーが元気な姿をみせられるとは限りません。パッションは個人の資質として捉えられがちですが、意図的にポジティブな行動をとるセルフマネジメントで補うことは可能です。
ポジティブなマインド
「ポジティブマインド」とは、物事を前向きに捉え、積極的に取り組み行動しようという気持ちを指します。
係長クラス以上になると、チームで発生した失敗やミスは個人の問題ではなく、組織の問題として捉え、問題解決するための具体的な解決策を探求する思考力とクリエィティブなアイデアを創出する力が必要となります。リーダーが打ちひしがれていては全体の士気も喪失します。失敗やミスを気づきや改善の機会と捉える逆転の発想。それを支えるのがポジティブなマインドです。新人だけではなく係長クラス以上のリーダーにおいても、困難さを乗り切る自己肯定感やレジリエンス力をつけることが大切です。
なお、ポジティブ心理学は、「人が幸せに生きること」を科学的に追求する学問として、ペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン教授により創設されました。脳科学や心理学を学ぶことも有効でしょう。
リーダー研修のポイント
リーダー研修の主要なポイントを9つ挙げますので、参考にしてみてください。
リーダーはいかなる場面でも自分の持てる力を最大限に発揮できることが重要です。集合研修以外にも個人コーチングなどを視野に入れてリーダー育成をすることが望ましいでしょう。
・研修の目的を設定する
・リーダー像を決める
・外部研修も検討する
・視野を広げる
・高い視座を持たせる
・エッジの効いた視点を持たせる
・バイアスを外せるような研修を行う
・実践とフィードバックが繰り返せる機会を与える
・研修後の成果を丁寧に分析する
研修の目的を設定する
研修カリキュラムを作る際や研修実施において最も重要になるのが、「研修の目的」です。そして、セットになるのが「研修のゴール(目標)」です。
研修の目的は、例えば「問題解決能力を高める」であれば、研修のゴールは「問題解決においてロジカルシンキングのツールを活用できるようにする」という具合です。カリキュラムは、目的とゴールにあわせ、個人ワークや演習などの時間配分を決めていきます。
また、研修実施に当たっては、研修の目的を明確に設定し、参加者はもちろん、送り出す上司にも研修の目的を理解してもらうことが重要です。
リーダー像を伝える
企業内で研修を実施するメリットは、自社のビジョンを実現するリーダーの理想像を具体的に伝えられることです。
企業の基本方針やビジョンを踏まえ、人事考課、部門のコンピテンシー、経営層の意見、現場のニーズなどと整合性を図り、リーダー像を策定します。それにより、現場でもっとも重要な能力やスキルとは何かが明確になり、この講習で習得できることを伝え参加意欲を醸成します。
外部研修も検討する
企業内研修とあわせ、外部研修をうまく活用することも検討材料の一つです。なぜなら、社内研修だけでは視点が偏ったり、汎用的かつ専門的なスキルをカバーできなかったりするからです。
外部の教育機関や講師は、教育のプロ、研修の専門家です。最新のトレンドをキャッチするアンテナに加え、新しい視点やノウハウを持っています。外部研修においては、講師派遣型と公開講座型があります。公開講座型は、最新のビジネストレンドや経営手法を取り入れ、専門家による洞察や実践的なスキルを学ぶことが可能です。また、異業種交流の場としても活用するなど、同じ世代やポジションにおいて刺激を与えられるでしょう。
日本経済新聞社の次世代リーダー研修では、一流ビジネススクールやトップ企業と提携し、異業種交流型のリーダー育成メニューを豊富に用意しています。多忙な業務に追われ、自社の外に目を向ける機会が少なくなることも多い次世代リーダー層に「他社の人材」というスパイスを加えることで、互いに刺激し合いながら学んでいただけます。
視野を広げる
リーダーとして「視野を広げる」というポイントは外さないようにしましょう。
これまでは、どちらかというと社内の問題に目を向けることが多く、ビジネスにおいて重要な環境変化や時代の先を読むこと、異業種と人とネットワークを作り、新しい情報やアイデアを手に入れること、そして外部の目を通して客観的に内部を俯瞰することなどができない状況だったことが容易に推察されます。
視野を広げるためには、異業種交流や他社留学、国際的なセミナーへの参加などがあります。もちろん社内においては、社内ネットワークや非公式のチームを作ることで組織をよく知ることができ、広い視点を持つことが可能です。
高い視座を持たせる
リーダーに「高い視座を持たせる」という意味は、今、自分が置かれている立場より、高い所から経営視点で物事を俯瞰する能力を持つことを意味します。
自分を経営者に見立てれば、社会全体を見渡して経営視点で中長期戦略をどう立てるのか、どういう意識決定を下すのか、なぜそのような意思決定をしたのかを考え、自身の業務や短期的な目標の見直しに繋げていきます。
高い視座を持たせるためには、経営層、幹部との座談会や社内留学などが効果的です。また、研修においては、先進事例の研究などのワークショップが有効でしょう。
エッジの効いた視点を持たせる
リーダーに「エッジの効いた視点を持たせる」とは、前例踏襲や常識、既存の枠組みにとらわれることなく、自由な発想でアイデアを提案できる状態を作ることを言います。
研修においては、例えば、創造力を鍛える「アート思考」などが有効です。ロジック(左脳)と感性・感覚(右脳)の両方を活用し納得解をアウトプットする力です。本来誰もが持っている感性を引き出すアプローチ法を学びます。
バイアスを外せるような研修を行う
特に部下の育成においては、リーダーのバイアスを排除することが重要です。公平性を保ち多様性を受け入れる、異なる価値観を持つ人とのコミュニケーションを想定したトレーニングが有効でしょう。
実践とフィードバックを繰り返せる機会を与える
研修の場では「理解」していても「実践」することは容易なことではありません。さらに「実践」が「定着」し組織に「浸透」するには、経験や時間の経過が必要になります。
特にリーダー研修のテーマとなる「リーダーシップ」「問題解決」「部下育成」などは、身につけた知識やスキルを実際に現場で試し、試行錯誤することが成長に繋がります。そこで有効なのが半年後の「フォローアップ」です。
フォローアップでは研修を受けて半年間を振り返り、できている点、できていない点、自身の強み、弱みを分析しブラッシュアップをはかります。もちろん、上司あるいは部下との面談においてフィードバックを受けることも有効です。研修をする際は、単発ではなく「実践とフィードバックを繰り返せる機会を与える」ことが重要です。
研修後の成果を丁寧に分析する
研修の後は、研修に参加した社員のアンケートや講師からの所感の他、事後課題の提出などで研修の理解度を分析します。また、3ヵ月後に本人に進捗確認のレポートを提出させたり、参加者を出した部署の上長から参加者の行動変容についてレポートをもらったりなどして研修の成果を確認します。
このように研修後の成果を確認することで、次回の研修の質を向上させることが重要です。
まとめ
本記事では、リーダー研修の「目的」、リーダーに求められる多岐にわたるスキルや能力、そして、リーダー研修を行うときのポイントを紹介しました。真の次世代リーダーを育てることは、組織の持続的な成長と競争力を高めることになります。
また、リーダーが現場で役割を発揮することで、管理職は本来の役割である戦略的思考や組織の目標達成に向けたビジネスモデルの策定に注力することが可能です。新人、若手研修と管理職研修の期間が空かないようにしっかりと教育体系をつくることも大切になります。本記事が、リーダーの資質を引き出す効果的な研修の参考になれば幸いです。