内定者研修に盛り込むべき内容とは|研修内容の計画方法や実施時のポイントを紹介
人財育成のヒント企業にとって、内定から入社までの間の内定者フォローは欠かせない活動です。フォロー施策は人事からの連絡、懇親会、内定者研修など多岐にわたります。その中で、実は多くの人事担当者が悩んでいるのが「内定者研修」です。
内定から入社までの間に何をしたらよいのか。「内定辞退を防ぐ有効な対策を知りたい」「どのようなテーマが有効なのか」といった声も耳にします。
日経ビジネススクールでは、これまでさまざまな企業様の「内定者研修」「新入社員研修」に携わってきました。
この記事では、直近のトレンドをふまえつつ「内定者研修に盛り込むべき内容」を解説していきます。
内定者研修とは
コロナ禍を経て、従業員エンゲージメントを重視する企業は着実に増えています。内定者研修とは、内定者の不安や悩みを解消し、社会人になるうえでの必要不可欠な準備をねらいとした研修です。
内定者研修の時期
内定者研修の時期や頻度は、企業によってさまざまです。一般的には、正式内定の10月から4月の入社までの6カ月の間に行います。企業によっては学業に専念してもらうことを第一に考え、入社までの間、研修はしないというスタンスの組織もあります。
例)10/1内定式+年内に1回+年が明けてからは1-2回開催。
・内定者研修を通して、いつのタイミングで内定者と接点を持つのがよいのか
・学生生活を最優先に考え、負担の少ない回数と時期はいつなのか(試験期間、イベントの多い時期は外す配慮など)
内定者研修の目的
内定者研修の主な目的は、次の通りです。
・内定者の不安や疑問を解消する
・内定者同士のチームワークを築く
・社会人として必要最低限のスキルを習得する
・社会人としての自覚を持ってもらう
日本の新卒就職活動では、以下の流れが一般的です。
6月〜選考開始・順次内々定 →10/1〜内定(内定期間スタート)→翌年4/1入社式
内々定を得てから、翌年の入社までの間、学生によっては10カ月近い期間があります。加えて内定式から入社までは6カ月あります。その間、不安や悩みを抱える学生もいるでしょう。
例えば、「入社後に人間関係をうまく築けるだろうか」「組織に溶け込めるだろうか」という不安に対して、内定者のチームワークが高まる研修は有効な解決手段です。入社後に同期となるメンバーと、内定者研修を通じてつながりを持つことで不安や疑問が払拭されるケースも多いです。
上記4つの目的に加えて、実際は「内定辞退を防ぎたい」という本音を持つ企業もあります。内定者研修を通して不安を解消したり、同期とのつながりや入社の自覚が芽生えたりすることで、自ずと内定辞退の防止につながる効果を期待できます。
内定者研修に欠かせない研修内容
内定者研修の目的に沿って、実施する内容を検討します。
内定者同士のつながり、社会人として必要なスキルの習得をねらいとした場合、以下のような内容が考えられます。
・ビジネスマナー研修
・コミュニケーション力研修
・OAスキル研修
ポイントは「内定者研修の目的ゴールは何か」「終了後にどうなってほしいのか」の「ありたい姿」を設定し、そこから逆算して、内容と実施方法を検討することです。
例えば、「社内で全て実施するのか・外部へ委託するのか」「対面で行うのか・オンラインで行うのか」、他にも「オープンセミナーに参加する」「Eラーニングで実施する」など方法はさまざまです。
仮に、実施の目的が以下の3つだったとしましょう。
・最終選考を除きオンライン面接が主体だったため、職場を見て働くイメージを持ってもらいたい
・入社までに基本的なビジネスマナーを身につけて欲しい
その場合、研修の内容案は以下となります。
ここからは、その他の内定者研修の主な内容について紹介します。
ビジネスマナー
ビジネスマナーとは、社内外全ての人に対して、相手を不快にさせず、信頼関係を築くのに必要な社会常識です。具体的には、あいさつ・身だしなみ・敬語・電話応対・名刺交換といった内容です。
実施のゴールが、まず「知る」ことであれば、eラーニングで十分知識の習得は可能です。しかし、確実に「できる」ことがゴールであれば、実践の場でのエクササイズ(演習)が必要になります。
ビジネスマナーは入社後に改めて指導する企業も多く、その場合、入社時点では最低限身につけておいて欲しい内容に絞ってもよいでしょう。特にコロナ以降は、オンライン就活が主流となり、企業訪問や電話応対の経験がない学生が増えています。このような時代だからこそ、入社前に実践の場が必要なのかもしれません。
論理的思考
論理的思考は、社会人にとって重要なスキルです。仕事とは、いわば絶え間ない「情報を伝える」シーンの連続です。情報を論理的に整理し、相手に分かりやすく説明することが、あらゆる場面で求められます。
新入社員となれば、上司への進捗報告を求められる場面も多いでしょう。結論から述べて分かりやすく説明できると、仕事の効率化や円滑なコミュニケーションに必ず役立ちます。まず最初の段階で身につけておくに如くはありません。
ただし、相手は入社前の内定者です。論理的思考をいかに楽しく学べるか、進め方の工夫も必要です。講義だけでなく、身近なテーマでグループ演習を多く入れるなど、和気あいあいと意見交換ができる環境づくりを心がけてください。
OAスキルの習得
OAスキルとは、オフィス・オートメーション(Office Automation)の略で、パソコンをはじめとする電子機器を使いこなすスキルです。OAスキルの代表格に、表計算ソフト「Excel」、文書作成ソフト「Word」、プレゼンテーションソフト「PowerPoint」などがあります。
社会人になると、資料作成などでパソコンを使う作業は必須です。IT化やデジタル化が進む近年では、OAスキルは持っていて当然となりつつあります。業界や職種にもよりますが、配属された新入社員がパソコンを使えないとなると、そもそも仕事にならないことも考えられます。
内定者研修を通してOAスキルの習得を目指す場合、以下のような実施方法が有効です。
・オープンセミナーに参加させる方法
・テキスト教材を提供する方法
・内定者の集合研修で実施する方法
専門の講師から基本スキルや分かりやすい資料作りのコツを学ぶことは、配属後の即戦力化につながります。
コミュニケーション力
コミュニケーション力は、ビジネスにおいて重要なスキルといえます。なぜなら、「相手をどれだけ動かせるか」というビジネスの成果の部分に直結するからです。
学生生活においてコミュニケーション力の高い人の特徴というと、ムードメーカー的存在で誰とでも仲良くなれるタイプが頭に浮かぶ人も多いでしょう。しかし社会人に求められるコミュニケーション力は、どのような場面においても、また相手が誰であっても、「伝える力」「きく力(聞く・聴く・訊く)」を発揮できるかどうかです。
内定者研修では、入社後をイメージして、話者の話を傾聴しているのが相手に伝わる聞き方や、忙しい人を相手に簡潔かつ分かりやすく質問するスキルを、グループディスカッションやロールプレイを通して学ぶ方法があります。
コミュニケーション力を上げるには、自分のコミュニケーション面での課題を知り、その課題を解く行動や習慣を日々の生活の中に取り入れることです。各々の内定者研修での気付きを、入社までの行動目標とするのもよいでしょう。
情報収集力
社会人にとって、情報収集力は「知識の量」に直結するスキルといえます。効率よく質の高い情報をキャッチする方法を知っていると、結果としてアウトプットの早さにもつながります。
他人から得られること情報の価値も大きいです。情報収集力の高い人は、常に新しい情報が入ってくる環境・関係をつくっています。
企業内では、コミュニケーション力の高さや自らの発信の多さも情報収集力に影響します。
内定者研修を通して情報収集力を身につけさせる場合、「情報は自分から取りに行くものである」ことを念頭に、以下のような内容で実施するのが効果的です。
・正しい情報収集の方法を教える
・情報収集はネット検索が全てではないことを教える
経済動向への興味・理解の促進
業界や職種にもよりますが、ビジネスでは経済動向は知っている前提で会話が進むことがあります。
自社はもちろんのこと取引先の業界動向、また社会全体のトレンド、この先世界ではどのようなことが予測されるのかなど、知っているのと知らないのとでは大きく異なります。特にお客様と対峙する仕事では、世の中で話題になっている事象を知らないできまりの悪い思いをすることさえあるでしょう。
就職活動の時期は、経済動向や希望業界の業界ニュースを追っている方も、就活が終わると同時に止めてしまう場合が多々あります。内定者研修を通して、今後も興味を持ち情報を収集する習慣が確立できていることが理想です。
例えば、日経経済知力テストなどの経済知力を測るアセスメントを通して、経済に対する興味を喚起している企業も多く存在します。
内定者研修の計画方法
ここからは、内定者研修のいかに計画、立案するかについて紹介します。
内定者研修の計画方法
2、研修のメインとなる目的を設定する
3、配属先部署から必要なスキルなどをヒアリングする
4、内定者研修のスケジュールを決める
1 内定者の志向や特性を把握する
内定者が決まると、個々の志向や特性が見えてきます。
採用担当者と内定者研修の担当が同じ場合は、選考過程を通して内定者のパーソナリティーや考え方を把握できているでしょう。一方で担当が異なる場合は、改めて今年度の内定者と昨年までの内定者を切り離して考え、どういった傾向の違いがあるのか把握する必要があります。
特に採用基準を見直した場合や選考方法を変えた場合は、内定辞退を防ぐためにも、まずは徹底して理解に努めることが必要です。アンケートや内定後の面談で再度ヒアリングをするのもよいでしょう。
採用計画の段階で、内定者研修の時期や内容を決めていることも多いです。内定出しが終わった時点で、改めて当初想定の内容でよいのか、今年度の内定者にはあわない内容になってはいないか、最終的な実施方法や内容の検証が欠かせません。
2 研修のメインとなる目的を設定する
内定者の志向や特性を把握したら、どのような研修が有効なのか検討します。
実施内容の検討にあたっては、目的の設定から始まります。全てはそこからのバックキャスティング(未来から現在への逆算)です。これは採用活動・内定式・入社式・入社後の教育研修の全てにおいて共通します。
仮に教育担当者だった場合、周囲から「内定者研修は本当に必要なのか」「何のために行うのか」と聞かれた際に、説得力をもって明確な理由を語れることが重要です。
内定者研修は時間もコストもかかります。また、内定者側でも研修より学業やプライベートの時間に専念したい人もいるかもしれません。それでも行う目的が明確であれば、しっかり発信し着実に実行に移すことに疑念の余地はありません。
3 配属先部署から必要なスキルなどをヒアリングする
新卒採用を例年行っている場合は、過去に新入社員が配属された部署からの必要なスキルのヒアリングが有効です。
新人育成に携わった上司や先輩であれば、よりリアルな情報を持っているでしょう。例えば、「せめて電話が取れる状態で配属させてほしい」「〇〇の言語については全体教育で行って欲しい」「エクセルが苦手な新人が多くて困った」「内定期間に運転免許が必要なことや地域によっては運転が発生することを新人に伝えておいてほしい」などです。
必要スキルを人事部門以外にヒアリングする場合、どのようなスキルがあるのか詳しくない場合もあります。アンケートを取るときは、スキルの説明を一覧にして選択してもらうのも一案です。そこで得た結果を、今年度もしくは次年度の研修に取り入れると、より配属先のニーズに合った教育が実現できます。
4 内定者研修のスケジュールを決める
内定者研修でスケジュールを決めることは、よほどの事情がない限りは必須です。
内定者研修では、人数によっては外部会場の予約、宿泊を伴う場合の宿泊施設の手配、役員が出席する場合のスケジュール確保など、事前の準備が必要です。講師役など他者を巻き込む研修は、とにかく早く動くことがポイントとなります。
スケジュールを事前に固めておくのは内定者のためでもあります。内定者研修のスケジュールは、就職活動を終えた内定者がいち早く知りたい日程の一つです。3月までの貴重な学生期間を研究発表、卒論提出、ゼミやサークルのイベント、卒業旅行など、この時期はイベントが目白押しで、学生はスケジュールに追われます。
仮段階でもよいので、いつごろ何を予定しているのか伝えてあげれば、内定者も安心するでしょうし、無用な不信感を募らせ、内定辞退につながるような事態を避けられます。
内定者研修のポイント
内定者研修のポイントは以下の通りです。
・内定者が求めている内容も盛り込む
・内定者研修の成果を確認する
・先輩社員などとの交流の機会を設ける
内定者が求めている内容も盛り込む
内定者研修では、内定者が求める内容を盛り込むことで入社へのモチベーションにつなげることができます。内定者から挙がる研修内容のリクエストには、企業側では考えつかなかったり提供できていなかったりする場合があるかもしれません。
もし内心は入社を迷っている内定者がいたとしても、要望を盛り込めば不安感の払拭や入社意欲を高められる可能性があります。例えば、「実際に職場を見たい」との要望があれば社内見学ツアーを催したり、「パソコンスキルが不安」との声があればパソコンの操作研修の機会を設けたりなどです。
企画にあたっては、会社側が内定者に求めることだけを研修に盛り込むのではなく、研修の一番の主役は内定者だと考えるのが肝要です。内定者にとって、「この会社を選んでよかった」「改めて入社したい」と思える機会が得られる場であることを忘れないようにしましょう。内定者が求めていることがあれば可能な限り期待に応えることが大切です。
内定者研修の成果を確認する
内定者研修の実施後は、その成果を必ず確認しましょう。課題があれば即応する必要性がありますし、次回以降の研修がスムーズにできます。
成果を把握する方法は、「何を行ったのか」によって異なります。例えば、知識インプット型の教育の場合、理解度チェックやテストが成果確認の一つとなります。マインドセットのような内容の場合は、入社後の姿を通して判断するしかないケースもあるでしょう。一般的にはアンケートを取る方法も多いです。これはテーマによっては満足度調査の位置づけとなります。
研修を企画する段階で、何をもって成果と判断するのか基準が必要です。
先輩社員などとの交流の機会を設ける
先輩社員との交流の機会は、入社意欲の向上、内定辞退の防止に効果的です。入社後の雇用のミスマッチを防ぐ意味でも有効です。
学生によっては、人事採用担当者がどれだけ本音で話しても、実際に現場にいる先輩社員が話す内容が、より内定者の心に響く場合があります。特に選考過程で先輩社員と交流の場がなかった企業では、内定期間に先輩社員と話す機会を設けてもらいたいとの要望が多く聞かれます。
入社後もつながりを持ってほしい場合は、少人数やマンツーマン、気楽な座談会形式なども効果的です。参加してもらう先輩社員の選定にあたっては、成功体験があり、モチベーション高く働いている人が理想です。
先輩社員には事前に交流の目的をしっかり伝えたうえで参加してもらいましょう。
まとめ
内定者研修は、内定者フォローにおいて効果的な施策です。企業にとって、内定者が不安を感じることなく全員揃って入社日を迎えることが一番の願いではないでしょうか。
この数年はコロナにより、学生生活や就職活動が大きく変わりました。これから内定者研修を導入する企業は、時代に合った方法で、自社の内定者にとって何がベストなのかを忘れずに計画することからスタートしてみてください。困ったときは研修会社に相談することも有効です。