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人的資本経営を推進するための5ステップ

横山貴士のHCM CAMP#3

「企業は誰のものか」。古くて新しいこの問いを抜きに人的資本経営は語れない。本質的な論点と具体的な事例を交えて解説する『「人的資本経営」が一からわかる本』の著者、横山貴士さんはHRビジネスに20年近く携わってきた。第一線で活躍するコンサルタントによる人的資本経営の実践を学ぶ「HCM CAMP」シリーズ。

経営トップの合意が一丁目一番地

第一歩は「経営トップの合意」をとることです。人的資本経営の推進は文字通り経営の話であり、投資や戦略との整合性が不可欠です。また、全社横断で多くの情報を集める必要があり、人事部など特定の部門だけでは進まない可能性があるため、経営トップの合意という旗印が必須となるのです。

たまに、「経営トップの合意をとれるかわからないので代わりに説得してほしい」という悩みを打ち明けられるときがあります。しかしこれは違います。説得するのはコンサルタントなど外部人材の役割ではなく、人的資本経営を推進したいと願う同じ職場の従業員であるべきです。外部人材はそのための支援をするという役割です。

(図表1)

現状把握は数値化よりまず言語化

トップの合意を得られたら、次に「現状を知る」ことを行います。これは、目標と現状のギャップ(「As Is」「To Be」ギャップ)とも言い換えられます。情報は可能な限り数値化するほうがよいでしょう。とはいえ、現状(As Is)を整理するときは、必ずしも数値化にこだわる必要はありません。数値化にこだわるあまり、数値で表せない情報が言語化されない場合があるからです。人的資本の情報は人にかかわることであり、人はみな感情や価値観など数値化しづらい面をもっています。「働きがいや働きやすさを感じる」のはまさに感情です。まずは数値化することよりも言語化して書き出すことを優先しましょう。

なお、目標については、ビジョンやパーパスといった実現したい世界観が既に存在していると思います。この世界観から導かれる「働きがいや働きやすさ」を言語化したものが人的資本経営の目標となります。企業には必ず実現したいことがあります。創業者は実現したいことがあるから創業したのです。そしてそれを実現するために経営戦略を立て、その戦略を実行できる人材を採用し、育成するのです。現状を知り、目標を再認識することが人的資本経営を推進する初期段階のステップです。

課題を洗い出す

「現状を知る」というのは「課題を洗い出す」ことでもあります。例えば、「女性管理職が少ない」「労働時間が長い」などは課題です。さらにここから、ひとつふたつブレークダウンして洗い出してみます。女性管理職が少ないのは、「そもそも女性社員の数が少ない」「昇進試験を受けられる社内資格にとどかない」といった具合です。そうすると、これらは採用や制度の問題であることが見えてきます。

ガイドラインをうまく活用する

自社の人的資本経営がどれくらい進んでいるのかを知るには、人的資本の情報開示と並行して考えるとよいでしょう。情報開示は言語化とあわせて可能な限り数値化します。数値化されていないものは評価できません。ここで注意しなくてはいけないのは、「とりあえず数値化」しようとすることです。手元にある数値をなんとなく集めてしまうと、求めている情報がそもそもなんなのか分からなくなってしまいます。集める数値は多ければよいということではありません。

そこで活用できるのがガイドラインです。ガイドラインにはいくつかありますが、筆者がおすすめしているのはISO30414(※1)です。ISO30414は指標が細かく国際ガイドラインということから、国内外を問わず大手企業が人的資本を開示する際の参考にしています。また、民間企業か公的団体か、または事業領域、企業規模、ビジネスモデルの複雑さに関わらずすべての組織に適応可能とされています。そして何よりも11項目58指標に整理されていて具体的だからです。

(※1)ISO30414…人的資本の開示に関する国際ガイドライン。11項目58指標で構成されている。研修時間、研修費用、人的資本ROI、リーダーシップの育成、後継者準備率、従業員エンゲージメント、離職率・定着率、ダイバーシティ、コンプライアンスなど網羅的・体系的に示している。

ガイドラインで示されている項目に洗い出した項目を当てはめていきます。そうすると、つい穴埋め問題のようにすべて埋めたくなるのですが、そこはこだわらなくともよいです。業界や企業によって課題は違うからです。ガイドライン活用の意味するところは、

①多くの企業が参考にしている
②他社と比較できる
③課題が整理される(可視化される)

といったところです。「現状を知る」「課題を洗い出す」「ガイドラインを活用する」を行ったり来たりしてうまく活用するとよいでしょう。

優先順位を決めてできるところから着手

最後に、「優先順位」を決めます。すべての課題を一気に解決するのは難しいと思います。重要なところから、できるところから進めます。細部にこだわりいきなり完全なものを目指すのではなく、ステップ・バイ・ステップで少しずつ進めていけばよいのです。#1で人的資本経営の推進には時間と投資が必要であることをお伝えしました。

さらに、外部環境の変化に対応することも重要です。最近はリモートワークを見直し出社回帰が進んでいるといったニュースを見るようになりました。このような環境変化に対応し、課題や優先順位を柔軟に見直すことも忘れないようにしてください。

横山貴士
【プロフィール】
パートナーコンサルタント
三井住友銀行グループのコンサルティング会社で約10年、人材育成施策の企画などを担当。2016年事業構想大学院大学で「組織×構想」について学び、独立起業。大手出版社の研修ビジネス立ち上げ支援、ビジネスコーチ(現東証グロース上場)顧問などを歴任。18年よりパートナーコンサルタントとして日本経済新聞社に参画、20年近いHRビジネスの経験を活かし、人的資本経営の推進や開示に関する実務をサポートしている。
中小企業診断士/ISO30414 リードコンサルタント/アセッサー/2030 SDGs公認ファシリテーター
映画・絵画・音楽鑑賞と読書が趣味。旅先では必ずクラフトビールを楽しむ。

  • 著者 : 横山 貴士
  • 出版 : セルバ出版
  • 価格 : 1,980円(税込み)

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