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出光 社内の人材交流促すジョブ祭り、経営陣と対話する独自の社員会も

出光興産は、新たな人財の活性化策や育成策を次々打ち出している。主力の石油製品から脱炭素関連へ事業領域が広がる中、今夏、社員を対象に各部署の業務内容を紹介する展示会を開催したほか、経営陣と対話する社員代表による一般社団法人「出光社員会」を立ち上げた。エネルギー産業が転換期を迎える中、どのような人財の育成を目指すのか、執行役員人事部長の池田和馬氏に聞いた。

各部署の業務内容を紹介する展示会開催、社員1千人が参加

――7月に各部署の業務内容を紹介する展示会を開催したそうですが、このイベントの狙いは何でしょうか。

昨夏に初めて「ジョブ・フェスティバル」を開催し、今年で2回目となります。今回は各部室によるポスターセッション形式を採用、約6000人の社員のうち2日間で実に1000人以上が参加しました。大半の部署が出展し、計52のブースが出ました。2019年に昭和シェル石油と統合しましたし、ベトナムに巨大製油所を展開するなど海外事業を拡充する一方で、アンモニアなど脱炭素関連の様々な新規事業も始めています。

しかし、社員は自分の所属する部署以外のことは意外と知らない。人事異動も、かつては各事業部内で行われることが多かったのですが、変革が求められる中、これからは部門を越えた人財交流も必要となります。そこでまずは各部署がどんな事業をやっているのか知ってもらおうとイベントを開催したわけです。開催後はどの出展ブースが参考になったかというランキング調査をしましたが、1位はベトナム事業室、現地の民俗衣装を着た社員がブースで説明するなど盛り上げてくれました。想定以上に盛況でしたね。

――社内転職というか、キャリアチャレンジ制度を導入しているのですか。

2020年にキャリアチャレンジ制度を導入しました。公募70件に対し成立者数は30件程度ですが、年々本制度で自律的キャリアを実現する社員は増えています。2024年4月にはキャリアデザイン部を新設しました。国家資格キャリアコンサルタントの資格を有する社員も在籍しており、自律的なキャリア形成を考える社員を支援する体制を整えました。

ジョブ・フェスティバルには約1千人の社員が参加した

ジョブ・フェスティバルには約1千人の社員が参加した

新たな人材戦略、3つの柱 キャリアデザイン部も設立

――エネルギー産業が転換期を迎える中、どのような人財育成を進めていますか。

当社は2050年ビジョン「変革をカタチに」を掲げ、「どのような未来が来ても、しなやかに、逞しく、未来を切り拓く人財集団」をありたい姿に設定しました。脱炭素社会に向かっていますが、どんなタイミングでどのように社会が変わるのか不確実。クルマのEV化も今は踊場に来ており、ハイブリッド車が売れていたりする。

しかし、従来のビジネスのやり方では通用しない。柔軟で逞しい人財が求められます。新たな人財戦略の3つの柱を据えました。「企業理念・ビジョンへの共感」、「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の深化」、そして「個々人の能力・個性の発揮」です。この個々人の能力・個性の発揮のため、ジョブ・フェスティバルの開催、キャリアデザイン部の設立、リスキリングの支援などを行っています。

――今も石油業界は男性社会と言われ、ダイバーシティ対応は課題となっています。女性幹部はどの程度の割合ですか。

女性の役員は社外取締役4人のうち2人を占めますが、生え抜きの女性役員はまだ誕生していません。女性管理職比率は4%程度で、今後の大きな課題となっています。やはり製造の現場では圧倒的に男性の従業員が多いのですが、販売部門などでは女性の割合が高まっています。現在、新卒の採用において男性、女性の比率はそれぞれ約半数になっています。

海外の現地法人は欧米やアジアに多くの拠点がありますが、現地のスタッフを一定期間、国内の本社や事業所に派遣するなど人的な交流を深めてゆくことも検討しています。互いの文化や宗教を理解し合い、将来的には人事システムの統合も視野に入れたいと考えています。

週一出向の越境体験、一般社団法人の社員会発足 

――若手やシニアの人財活性化策や育成策として具体的にどんな試みに取り組んでいますか。

ユニークな試みとしては「週1出向」「週1先生」という越境学習・体験の取り組みをやっています。「週1出向」は、山口県北部にある長門湯本温泉の街おこしの支援のため、弊社の60代社員が週1回、地元企業でデジタルマーケティング支援などの業務に当たっています。地域の駐車場に出入りするクルマのデータなどを収集・分析して、どのタイミングでイベントを仕掛けたら効果的かなど、様々な助言やマーケティング支援をやっています。これはいわゆる副業ですね。

一方、「週1先生」は千葉県松戸市の公立中学に週1回、3カ月単位で通い、先生方の働き方改革の支援や特別講義をやっています。特別講義では、ジェンダー問題とか、異文化体験など生徒さんたちに役立ちそうなテーマを取り上げています。海外駐在経験のある社員の話は、生徒さんたちに喜ばれますし、弊社の社員にとっても刺激的な体験になっています。今では中学校の先生方が弊社の研修にオブザーバー参加するなど人財の相互交流に発展しています。外部との人財交流は様々な形で進めています。

――かつての出光は「大家族主義」の会社と呼ばれましたが、再編等でグループが大きくなっています。経営陣や従業員間のつながりを高めるため、どんな試みをやっていますか。

実は経営陣と従業員のコミュニケーションを円滑化するため、7月に「出光社員会」が発足しました。労働組合とは全く別の組織で、一般社団法人として会社とも独立した外部組織となっている点や、活動対象には管理職も入っている点が特長です。社団法人としては、6人の若手・中堅社員の専任理事 で構成、運営されています。全従業員が主体的に「より良い会社・組織風土」創りに参画するための「場」を提供し、経営陣をはじめ、部門や階層を超えた対話や提言を通じて、経営参画意識の醸成と一人ひとりの自律的な成長に繋げていくのが狙いです。

創業以来、「人が中心の経営」を志向してきました。人を大事にする姿勢は今も変わりませんが、変革期には新たな人財が求められています。現在は1年間に入社する新卒採用とキャリア採用は約半数となり、純血主義は今は昔。キャリアデザイン部も社員会も立ち上がったばかりですが、次世代を担う人財育成に力を入れていきます。

(聞き手は代慶達也)

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