スペースBD社長、社外取締役は頼りになる応援団
女性の社外取締役育成講座でインターンシップ
女性の社外取締役育成講座受講生に講義する永崎将利社長(スペースBD本社)
日本経済新聞社が運営する「女性の社外取締役育成講座」の社外取締役インターンシップが、宇宙関連ビジネスを手掛けるスタートアップのSpace BD(スペースBD、東京・中央)で開かれた。受講生は、永崎将利社長と同社の経営課題について議論した。永崎社長は、社外取締役に「困ったときに頼りになる応援団」の役割を求めているという。
スペースBDは、自社で衛星やロケットを開発せず、顧客の宇宙ビジネスをサポートする商社機能を提供する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大型基幹ロケット「H3」やイーロン・マスク氏が率いるスペースXの大型ロケット「ファルコン9」などのロケットに衛星を搭載する手続きを請け負ったり、JAXAのパートナーとして、国際宇宙ステーション(ISS)にある日本の実験棟「きぼう」で、医薬品開発にも期待されている高品質たんぱく質結晶生成の実験を提案したりしている。また、宇宙を題材にした教育事業も展開する。
永崎社長によると、スペースBDは2017年の創業から7年目で、初めて黒字化した。着実な成長を目指しているものの、宇宙ビジネスは大型案件の有無次第で業績が左右される側面がある。受講生から、できるだけ早く新規株式公開(IPO)して成長資金を確保すべきではないかとの指摘があった。
これに対し永崎社長は、IPOの時期を慎重に見極めるという姿勢を強調した。商社機能を提供するスペースBDは、製造設備を抱える必要がない。このため、IPOによってしか得られない数百億円規模の資金を調達する必要に迫られていない一方で、予見性の低い宇宙という新産業では、四半期決算や適時開示への対応など「コストがより大きくかかる側面にも留意が必要」(永崎社長)という。さらに、取締役は株主の意向を経営に反映させざるを得なくなり、意思決定の自由度が失われる懸念があるとした。永崎社長は「IPOを目指していく方針ではあるが、今のフェーズでは、基盤を整えることが最優先」との考えだ。
社員とは異なる立場で相談に乗ってくれる
ただ、社員のなかには、目線やリテラシーの違いから「株式公開が絶対解」という向きもあるといい、「そんなときに、一番相談したくなるのが社外取締役」だという。永崎社長にとって、社外取締役とは「プロとして対価を得ながら、社員とは異なる立場で、中長期的な視線から相談に乗ってくれる存在」だ。ベンチャーキャピタル出身の社外取締役から、「時価総額1兆円企業を育てるのが目標。スペースBDで、それを実現したい」と激励されているそうだ。
宇宙産業の事業構造は、JAXAを背景とする官需が主体だ。民間の需要を開拓できないのかという受講生の問いかけには、「企画提案に取り組んでいる」(永崎社長)という。国際宇宙ステーション内のほぼ無重力の環境下で、対流や沈降の影響を受けずに、きれいなたんぱく質の結晶を生成できることは分かっている。ただ、実験レベルにとどまっていて、医薬品開発につながった事例は少ない。
壺(つぼ)を売られている気分になります――。スペースBDの社員が宇宙空間でたんぱく質の結晶を生成する提案をしたところ、製薬会社の担当者から返ってきた言葉だ。宇宙空間を利用して新薬を開発するというテーマは、日本だけでなくアメリカの研究者も追いかけているといい、「誰が最初に大ホームランを打つかというレース」(永崎社長)になっている。
安定した収益を確保するため、宇宙をテーマにした教育事業を伸ばすべきではないかという受講生の提案もあった。スペースBDは1月に、JAXAから日本人宇宙飛行士候補者の一般サバイバル訓練を提供する事業者に選定された。過酷な環境で孤立した状況を想定し、判断力と行動力を養成する。ボーイスカウト日本連盟と陸上自衛隊から協力を得た。今後も、宇宙をテーマにして「企業の幹部が強いマネジメントを実現する手助けをしたり、次世代ビジネスパーソンを養成したりするプログラムを充実させていく」(永崎社長)という。
(魚住大介)