企業にとっての「良い教育研修」とは?
コンサルタントのつぶやき学習コンテンツや学習方法の多様化が進み、有料・無料を問わずオンライン動画教育サービスなどの学習リソースが広く利用されるようになりました。その結果、学習者にとって「何をどのような方法で学ぶか」を選択することが一層複雑になっています。
この状況の中、企業内で人材教育を推進するうえでは「良い教育研修」を見極め、企画することの重要性が高まっています。
そこで、従業員を価値ある資本と考え、そのスキルアップに重点を置く「人的資本経営」の考え方を踏まえつつ、企業内で実施する研修や講座について、どんなものが良いと言えるのか、考察してみたいと思います。
社員の変化が企業を変革
まず、研修が組織の戦略的目標に沿っていることは、教育投資がビジネスの具体的な成果につながるために不可欠です。研修による学びが、組織が目指す方向と一致している場合、従業員の能力向上は直接的に組織全体のパフォーマンスを強化します。
企業における研修や講座は、個々の社員の行動を変えることで、企業全体をより良く変革させる力となります。心理学者クルト・レウィンが提唱する変化理論によれば、人々はまず現状の行動や考え方(凍結状態)に疑問を持ち(解凍)、次に新しい行動や考えに開かれ(変更)、最終的にはその新しい様式を日常的なものとして受け入れ(再凍結)ます。この流れによって、研修ではただ情報を学ぶだけでなく、社員が実際に新しいやり方や考え方を仕事に取り入れる動きが生まれます。
具体的には、研修で学んだ内容が、社員の既存の仕事の流れや慣習に対する疑問を呼び起こすきっかけとなるのが解凍のプロセスです。続いて、社員が新しい知識やスキルを学ぶことで、彼らの行動に変化(変更)が現れます。最後に、これらの新しい行動が日々の作業に組み込まれ、企業の標準的なやり方として確立されることで、再凍結が達成されます。
「良い教育研修」とは、社員一人ひとりが新たな知識を学び、それを実際の行動に移すことを促します。企業としても、社員が研修で学んだことを日常業務に生かしやすい環境を作ることが重要で、これが実現すると社員のスキルアップだけでなく、企業の目標達成にも大きく貢献することになります。
ISO指標で効果検証も
ISO30414(人的資本に関する情報開示ガイドライン)は、組織が人的資本について報告する際の基準と要件を提供し、人的資本の効果的な管理と持続可能なビジネスを支援します。 義務化された開示項目には、従業員のトレーニングや能力開発などが含まれ、これらの指標を検証することで、優れた研修や講座の重要性が強調されます。
従業員のエンゲージメント
満足度調査
【生産性】
従業員1人あたりのEBIT
従業員1人あたりの売上
従業員1人あたりの利益
【スキルと能力】
人材開発・研修への投資総費用
研修への参加率
従業員1人あたりの研修受講時間
たとえば、このような項目を組み合わせることで、研修の効果を検証することができるかもしれません。
組織が戦略的目標に向かいつつ、従業員のスキルアップと能力開発にどれほど貢献しているかを把握するためには、組織の価値観やビジョンに対する従業員の満足度、生産性の向上といった成果指標と、研修に投じられたコストのバランスを考慮した複合的な指標の分析が必要です。 研修後のアンケートが役立つことは間違いありませんが、それだけでは実際の行動変容をはっきりと測定するのは難しいでしょう。
組織が提供するサポート体制も、教育研修の効果を高める重要な要素です。上司やメンターによるサポート、職場での応用をしやすくする組織文化、学習した知識を展開できる機会の提供は、行動変容を促し持続させるために不可欠です。
「良い教育研修」の見極めが、企業の将来を支える人材の価値を高める一助となれば幸いです。
(寺内 涼)