JICT社長、社外取締役は改革の推進力
女性の社外取締役育成講座でインターンシップ
セミナーレポート受講生に講義する大島周社長(JICT本社)
日本経済新聞社が運営する7月期の「女性の社外取締役育成講座」で、海底ケーブルやデータセンターなどに投資する総務省所管の官民ファンド、海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)に、社外取締役を目指す受講生6人が出向き、インターンシップに参加した。
JICTの社外取締役は、外資系コンサル出身の大臣補佐官経験者のほか、米国で金融のスペシャリストとしてキャリアを築いたサンフランシスコ在住の女性など多様な人材が集まっている。みずほ銀行出身の大島周社長は「女性の目線は貴重」といい、「社外取締役の意見が改革の推進力になった」と評価した。
JICTは、通信インフラの整備やICT(情報通信技術)関連サービスを運営・提供する日本企業の海外展開を支援するため2015年に発足した。ICT事業を専門とする唯一の政府系投資ファンドで、民間からはNTTや住友商事、富士通、みずほ銀行などが出資する。これまでシンガポールとインドを結ぶ光海底ケーブル敷設やインドでのデータセンター整備、アフリカのICTサービス産業育成事業などに投資した実績がある。優先株を駆使した投資案件から収益が上がり始めたこともあり、24年3月期には、営業損益と純損益が、設立以来初めて黒字に転換した。
JICTは発足当初、投資対象が光海底ケーブルや通信タワーなど実物資産(ハードインフラ整備)に関連する事業に限定されていた。グリーンフィールド(未開発のエリア)の開発案件は時間を要することもあり、投資案件が十分に確保できなかった。21年6月に大島氏が社長に就任し、総務省により支援基準が拡大された22年以降は、自然言語処理技術を活用した多言語翻訳サービスやオンライン決済などICTサービス事業にも投資できるようになった。社外取締役からは、投資の議論に際して「解像度を上げて、より具体的な議論をするように」との要望があったという。
投資対象の拡大を受けて、外部の知見やネットワークを活用するエコシステムの形成にも取り組み始めた。受講生からは、日本企業を支援するエコシステムでJICTが果たす具体的な役割についての質問が飛んだ。
案件不足に悩んだ理由のひとつとして、大島社長は「JICTの存在自体が知られていなかった」点があったと指摘した。海外の企業や政府機関、金融機関、学界などの関係者が参加するイベントに積極的に出向いて、「JICTが〝使える〟機関だという情報が、うまく流通する環境の整備」に取り組んできた。様々な結びつきをきっかけに、新たな投資の機会を見つけていくのが狙いで、例えばアフリカでフィンテックを駆使して社会課題の解決に取り組むスタートアップを、ファンド出資を通じて支援するという成果にもつながったという。
悪いところを直して〝水の流れ〟を良くする
また、黒字化した要因に関し、大島社長は就任後、組織体制の見直しにも取り組んだことも明らかにした。着任直後に会社の重要な事項を活発に議論すべく経営会議を設置。課題を認識したうえで、その解決にむけ組織全体の執行力を強化したほか、人事評価制度も整備した。
大島社長はJICTを「政策的な意義とファンドとしての収益性の両立を求められる難しい組織」と捉えている。「難しい組織」の具体例に関心を示す受講生に対し、大島社長は投資案件1つとっても、総務省のほか財務省、外務省、経産省など関係する省庁が多岐にわたることをあげた。そのうえ、JICT内部でも、多様な経歴を持つプロパー社員、金融機関や株主企業からの出向者など、考え方の違いから遠心力が働きやすい構図があることを指摘。経営ビジョンを定めたり、組織改革に取り組んだりするうえで、「大臣が認可する社外取締役の意見は重かった」(大島社長)という。
リーダーの要件についてただす受講生に対し、大島社長は「現場の不満や批判を丁寧に聞き取って、悪いところを直して〝水の流れ〟を良くするように心がけている」と自身の考えを明らかにした。また、「外部や現場の意見を意思決定に反映する姿勢を持つ社長を、どのように見分けることができるのか」との受講生からの質問に対しては、「リベラルアーツ(一般教養)への興味」に注目するよう勧めた。例えば、「正確に美しく話そうとする語学へのこだわりがあったり、音楽、数学、スポーツなど、努力しないと上達しない分野の経験を持っていたりする社長は信頼できるかもしれない」と説き、一同は納得した様子だった。
(魚住大介)