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「わくバリ」高めるジョブ・クラフティング

ウェルビーイング経営を進めるうえで、注目したい手法にジョブ・クラフティングが挙げられます。ジョブ・クラフティングは、従業員が仕事に対する考え方や取り組みを変えること。業務に対して自分なりに工夫することで、「やらされ仕事」を「やりがいがある仕事」に変化させます。組織側はうまく活用すると、従業員のエンゲージメントを高め、生産性向上につなげられます。

ゲストもてなす東京ディズニーリゾートが好例

日本経済新聞社 人財・教育事業ユニットは2024年春、大手企業374社を対象に「人的資本経営調査」(https://school.nikkei.co.jp/feature/hr/contents/knowhow/53?n_cid=ngc_site_ndownload)をまとめました。このなかで「人的資本経営で力を入れていきたい分野」という設問に対して、最多回答となったのが「社員のエンゲージメント」(全体の58%)でした。

(注)「人的資本経営調査」(日本経済新聞社 人財・教育事業ユニット、ワークス・ジャパン実施)より抜粋。複数回答可、単位%

(注)「人的資本経営調査」(日本経済新聞社 人財・教育事業ユニット、ワークス・ジャパン実施)より抜粋。複数回答可、単位%

エンゲージメントに対する産業界の関心が非常に高いことが分かります。今回は、その助けにもなりそうなジョブ・クラフティングについて考えてみましょう。

ジョブ・クラフティングといえば、東京ディズニーリゾートの「カストーディアル」の例がよく挙げられます。カストーディアルとは、施設内の掃除を担当する役割です。東京ディズニーリゾートではある時、自発的にバケツの水で地面にキャラクターの絵を描いたり、パントマイムのようなパフォーマンスをしたりするカストーディアルが現れました。

これをみて、同様の行動をとるカストーディアルが増えたのです。自身の役割を掃除に限ったものから、ゲストをもてなす一員と捉え直すことで、エンゲージメントが高まったという流れです。ここで分かるのは、本人にある程度の自由度を認めることが重要ということ。周囲が「余計なことをしてはいけない」と過度の制約を課すと、ジョブ・クラフティングは定着しないでしょう。

米国で2001年に提唱された理論

日本でも話題になっているジョブ・クラフティングですが、その理論は2001年、米国でエイミー・レズネスキー氏、ジェーン・E・ダットン氏という2人の学者が提唱しました。モチベーションを高めるために、自身の働き方に工夫を加える手法として徐々に知られるようになりました。

厚生労働省の資料によると、工夫を加える際、「作業クラフティング」「人間関係クラフティング」「認知クラフティング」という3つの観点があると説明しています。

作業・人間関係・認知 3つの観点から工夫

同省資料によると、1つ目の「作業クラフティング」とは、仕事のやり方に対する工夫であり、仕事の中身がより充実したものになるよう、仕事の量や範囲を変化させる工夫です。

2つ目の「人間関係クラフティング」とは、周囲の人への働きかけの工夫であり、仕事で関係する人々との関わり方を調整することで、サポートや前向きなフィードバックをもらい、仕事への満足感を高める工夫です。

3つ目の「認知クラフティング」とは、仕事の捉え方や考え方に関する工夫であり、仕事の目的や意味を捉え直したり、自分の興味関心と結びつけて考えたりすることで、やりがいを感じながら、前向きに仕事に取り組む工夫です。

森永雄太・上智大学経済学部教授は2024年3月7日、ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会と早稲田大学が実施したピープルアナリティクスアカデミーにて、「ジョブ・クラフティングとそのマネジメント」というテーマで登壇しました。そのなかで、森永教授は「日本は国際的にみて、わくバリ度が低い」「わくバリの状況を作ることが大切」などと指摘しました。わくバリとは、わくわくバリバリ働こうと思える状態を指しています。

森永教授によると、わくバリを高めるための3つの基本論理が、①個人の資源(楽観的かどうかなど)②仕事の資源(業務に自律性があるか、周囲に支援してもらえる状況にあるかなど)③仕事の要求度(仕事の大変さ。業務量が多いか、業務内容が難しいかなど)――だといいます。

研修・マネジメントに変化促す

わくバリ状態でない時こそ、ジョブ・クラフティングの出番でしょう。従業員個人の自発的なジョブ・クラフティングに任せるだけでなく、組織側がわくバリ社員を増やす施策を考えることが重要です。

森永教授によると、ジョブ・クラフティングを促すには、①従業員に対して直接研修をして教える②組織側がマネジメントを変えていく――の2つがカギとなります。森永教授は「組織側がマネジメントを変えていく」については、具体的には「個を発揮させる人事制度を整えていく」「上司がインクルーシブ・リーダーシップを発揮する」ことだと指摘します。

このうち、個を発揮させる人事制度としては、訓練に関する人事施策、ケアに関する人事施策が挙げられます。森永教授によると、ケアとはストレス発散や心理的な負担を下げること、訓練とは知識やスキルなどを向上させるトレーニングを意味します。

もう1つのインクルーシブ・リーダーシップとは、部下が相談しやすいと思える状況、上司が後押ししてくれていると思える状況、聞く耳を持ってもらえていると感じられる状況にするための、リーダーのふるまいを指します。

要因分析や改善策につなげる

このように、組織側が心理的安全性を確保しながら、ジョブ・クラフティングが生まれやすい環境を整備することが欠かせません。ちょっとした工夫が大きな成果につながる可能性のある手法だけに、活用したいところです。

人的資本開示の指標「ISO30414」のガイドラインでも、「組織風土」という項目の中で、「エンゲージメント/満足度/コミットメント」という指標があります。高いモチベーションの労働力ほど、人的資本の価値が高いという考え方です。エンゲージメント指数の結果から、背後にある要因の分析や改善策の策定が必要となりますが、今回見てきたジョブ・クラフティングが参考になりそうです。

(村山浩一)

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